紙めくりて

本と文具好きのオタクがクリア冬のコスメで右往左往するブログ

2020.12.30 読了後の本感想

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読了後の本感想。大掃除しました。

十八世紀ヨーロッパ監獄事情(ジョン・ハワード

ヨーロッパの監獄を歴訪し徹底した調査と観察に基づいて監獄の現状を記した本。改革を提言する報告書の一部を訳したものだが、伝聞はなく著者が直接見たことだけを記述した社会史の史料。

十八世紀の監獄の様子が知りたくて読み出したのだが、当時の監獄の様子がよくわかる。著者であるジョン・ハワードは自身の拘禁経験から換気と採光、食事や衛生に対しての観点を厳しく批判している。当然、いい顔をされていなかったようなので視察を断られたり、国境越えられなかったり、変装して侵入したりした。情熱が凄い。また当時の監獄は衛生環境が悪く、監獄熱の脅威もあり実際に視察することは身の危険もあった。当時の状況を知る史料としても、また読み物としても興味深い内容だった。

十八世紀ヨーロッパ監獄事情 (岩波文庫)

十八世紀ヨーロッパ監獄事情 (岩波文庫)

 
ラボ・ガール 植物と研究を愛した女性科学者の物語(ホープ・ヤーレン)

研究を一生の仕事にすることを志した一人の女性植物学者が、男性中心の学問の世界で、理想のラボを築きあげていく生き様を綴った自伝。内容はサイエンスなのだが、冷静で淡々としているのに文学作品のような表現が多く、読み物としても面白い。

著者は男性中心の学問の世界で、自身のラボを持つ。だが、それは並みのことではなく資金問題はいつだって付いて回る。著者の専門が基礎研究で、世間から注目され難く予算が微々たるもの。研究費を継続して獲得する難しさが垣間見える。また「女性だから」と言う風当たりもある。家庭を持ち、出産をして、子育てをしながら研究をする。女性の社会進出とは簡単にいうが、こういった現状を日本政府はどう考えているのだろうと読みながら考えていた。

ラボの運営はビルという相棒の存在が必須で、本書にはずっと登場する。著者とは異性なので、周囲は色恋関係にしたがるようなのだが、そういった話でもなく本当にソウルメイトや相棒と言う表現がしっくりくる関係だ。ただ、ビルは研究の裏方に徹していて功績を認められず安定した地位にいない。著者はこの点にも憤りを隠していない。

著者が最後の章で「科学者としての私はアリのような存在だ」と表現しているのが印象的だった。確かに基礎研究はそれだけで要塞に穴は開けない。しかし、だからといって無価値でもない。見た目より強くて、もっと大きなもの一部。いい表現だと思った。

本書より「私が科学者として秀でているとしたら、それは人の話を聞くのが得意ではないからだ。これまで私は色々なことを言われてきた。(略)本当に色々な評価を受けてきた。でも、私にこんなことを言うのは、私ほど現在を理解できず未来を予測できない人たちばかりだ。むしろ、これだけ指摘されると腹が据わる。私は一人の女性科学者っであるが、私がどんな人間であるかは誰も知らない。だからやりたいようにすればいいのだ。同僚からのアドバイスは受けないし、私からも与えない。追い詰められたときは、ふたつの教訓を思い出せばよい。この仕事をあまり深刻に受け止めるな。でも必要な時は全力で取り組め。知っておくべき事柄を私はすべて知っているわけではない。でも、なにが必要かについては知っているつもりだ。私は”愛している”と言葉で伝える術を知らないが、それを表現する方法を知っている。 私を愛してくれる人たちも同じだ。科学は仕事であって、それ以上でもそれ以下でもない。」

好きを仕事にするとは、こういう腹の据わり方がいるのかもなと思った。単純に同性として格好いいと思った。

ラボ・ガール 植物と研究を愛した女性科学者の物語

ラボ・ガール 植物と研究を愛した女性科学者の物語

  • 作者:Hope Jahren
  • 発売日: 2017/07/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)