紙めくりて

本と文具好きのオタクがクリア冬のコスメで右往左往するブログ

2020.12.2 読了後の本感想

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読了後の本感想。今回は結構書き込んでるので走ってないかもしれない。

生きながら火に焼かれて(スアド)

もう何年か前から読むと決めていて、でも覚悟なくてずっと読んでいなかった本。

発行は2004年の本だ。

存在はもっと前に知っていた。学生時代から本書の存在は知っていたので、もう10年ぐらい手をつけていなかった計算になる。

最近家族について考える機会が多く巡ってきて、ようやく覚悟を決めた形だ。

やっと読んだ。めっちゃ重かった。今もちょっと怖い。

 

本書は、中東シスヨルダンで義理の兄に生きながら火あぶりにされた女性の体験談だ。

この村では女性は肌を曝してはいけない。短いスカートや化粧も常識外。服を選ぶ権利もなく、買い物にも出ない。髪を切る自由もない。女子は学校に通うこともなく、何かあれば父親に鞭で叩かれ奴隷のように働く。それが当たり前の世界だ。

この村では女性は家畜以下で、ひたすら男性に服従しなければならない。処女が女性の価値で、男性と視線を交わしたというだけで娼婦呼ばわりされる。結婚前の恋愛・性交渉は家族の恥であり、名誉を汚した娘は死を持って償わねばならない。

名誉のために実の娘を殺害するこの行為を「名誉の殺人」と呼び、手を下した男は英雄と見なされ、賞賛され、殺人者として非難されることもない。

著者の姉の結婚式や初夜の話が出てくるが、私が当たり前にしている常識とかけ離れすぎていて眩暈がしてくる。

著者はそんな村で生まれ、死に値すると知りながらも恋をし、男性に言われるままに関係を許して身篭ってしまう。まともな教育を受けていないので知識も避妊もないもない。挙句、相手の男性は著者が処女でかつ身篭ったと知ると行方をくらましてしまう。残された著者は、義理の兄に生きながら焼き殺されそうになる。

奇跡的に生き延びるが、搬送された先の病院でも碌な治療は与えられない。警察も彼女の元には話を聞きに来ない。家族の問題なので医療機関では誰も手を出さない。むしろ早く死ぬことを望まれ、実の母はトドメを刺しにくる始末である。生きていると家族の名誉はいつまでたっても濯がれないからだ。

本書を読み進めると、著者の母も村の慣習を受け継いでいるだけなのだろうと感じる。母自身も父の機嫌が悪ければ暴行を受けるのは当たり前。それが常識になっている。しかも、著者は正確に兄弟の人数を知らない。娘ばかり続くと生まれてその場で殺すそうだ。私は本書を読む前に女子割礼の著書を読んだことがあるが、あちらの方がまだ平和な錯覚すら覚える。錯覚だが。

本書の著者は、その後福祉団体によって救出され、現在はヨーロッパで新たな人生を歩んでいる。しかし、本名も素顔もプロフィールの詳細は公開されていない。

これは本当に命を懸けた告発だからだ。「名誉の殺人」に時効はない。殺し損ねたと知れれば、彼女の家族はどこまでも追ってくる。実際、家族の下から逃れ静かに暮らしていた女性が、数年後に家族によって殺されるケースも少なくない。

本書では、その後苦しみながら治療を受け、言葉や文化を学び、自分と向き合い、誰かを好きになり、子どもに恵まれ、長男と向き合う。その後の話も出てくる。

本書には「例えば、鏡のない世界できみの目はブルーだと人から言われたら、一生、自分の目はブルーだと信じるだろう。鏡というのは文化や教育、自己および他者の知識を写し出す。私は鏡を見るたびに自分はなんて小柄なんだろうと思うが、鏡がなければ横に大きな人でもいない限り、小柄であることを気付きもせずに歩くだろう。知らないというのは、本当に恐ろしいことだ。」とある。

また、著者がヨーロッパで行った講演からも引用する。「女の子はなぜ学校に行かせてもらえないか?世の中のことを知ってはならないからです。(略)知識も教育も法律も、全て両親から与えられるのです。だから女の子に学校は必要ないのです。通学カバンを手にバスに乗ったり、綺麗な服を着たりしなくて済むように。書いたり読んだり出来るようになると頭がよくなりすぎてしまいますから、女の子にとってよくないんです。」

個人的タイムリーネタ過ぎて頭をぶん殴られた気持ちだった。

私は、似たような言葉を母から言われたことがある。

頭のよすぎる女の子は可愛げがない。女の子に学など必要ない。だから貴女は勉強なんてしなくていい。大学には行かずに家事が出来るようになりなさいと。

私は運命論など信じていないし、神も信じていない無宗教だ。でも、今この本を手に取った意味を考えてしまう。

全く違う世界に生まれ、全く違う常識で生きている。しかし、本書の本質は私の身近にも存在している話なのではないかと考えて止まない。

女性は医学部に合格しにくいだとか、女性は結婚し子どもを持って一人前だとか。

日本で聞く男女差別も、根本を探れば根元にあるものは著者のいた村と殆ど大差ないのではないか。

女である私に出来ることは、少しでも世界を知り、少しでも学ぶことなのではないかと思う。私には直接彼女達の村に飛び込む勇気はない。誰かを助けられるほどのお金もない。だから、良書でも悪書でも何でもいいから本を読もうと思った。もっと色んな世界を知ろう。

本書は日本とは程遠く見える、とても恐ろしい怖い世界の話だ。それでも、どうかこの世界のことを知ってほしいと思った。

生きながら火に焼かれて

生きながら火に焼かれて