紙めくりて

本と文具好きのオタクがクリア冬のコスメで右往左往するブログ

2020.12.25 読了後の本感想【生物学系】

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読了後の本感想。内容にクリスマスらしさはない。

 禍いの科学 正義が愚行に変わるとき(ポール・A・オフィット)

新たな科学の発想や発明は時として禍いをもたらすことがある。「なぜ」「どのような」経緯でそこに至ったのかを解説した本。本書ではこのような致命的な害悪を”パンドラが伝説の箱を開けたときに放たれた凶悪な禍い”と表現している。詩人だなと思った。あと表紙イラストがとてもお洒落だ。

7つの科学についてまとめており、「アヘン」「トランス脂肪酸」「窒素肥料」「優生学」「ロボトミー手術」「DDT禁止」「メガビタミン療法」、過去からの教訓と続く。

本書は元々アメリカで出版されたものであるので、ここで取り上げられるものの多くがアメリカで起きたものが多い。特に優生学の章は多民族国家アメリカ独特の闇が深さを覚える。優生学に基づいた強制避妊手術は日本でもあった話だが、人種差別の話に展開していく部分にその感覚を覚えた。ここではトランプ元大統領の話を例に出してくるので、その部分だけ政治要素がある。

話の一端なら聞いたことがあるものが多いと思うのだが、かなり詳しく説明してあるので、知っている項目でも一読してみると発見がありそうな内容だった。特にDDT禁止、沈黙の春に関連する話は、あまりよく知らなかったのでとても勉強になった。

過去からの教訓は総訳すると「地面に足つけて、自分の頭でメリットとデメリットを考えろ」になる。それが簡単に出来ないから人間は愚かなんだよなぁ……ともどかしい気持ちにもなる。本書には明確な正解がない話が多く、本書を読んでも「これが正解!」と言うものもない。ノーベル賞を受賞しているような科学者がデータの吟味不足の話を広めたりするとなってくると、もう自分が科学者になるしかない。しかし、沈黙の春がそうだったように「そうみえる」ように情報を伏せ印象操作している事例。ロボトミーのように美味いことしか伝えず手術にこぎつける事例は、今でもある手法でもある(美容整形など自由診療形態の病院であるらしい。実際は違法なのだが……)

目の前にある情報にすぐに飛びつくのではなく、一度様々な視点からそれを見つめなおしてみる癖をつけるだけで、専門知識が乏しくともこういった話の綻びに気付けるかもしれないと感じた。

これから新型コロナのワクチンが流通するようになれば、メディアに踊らされないように一度多角的な視点で科学を見つめる力が求められるのだろうか。20年後に「あの時の人間は愚かだった」などといわれる未来があるのかもしれない。とてもタイムリーな話だし、知識がないものに優しくない世界だなと少し感慨深い気持ちになった。

化石の探偵術(土屋健/ロバート・ジェンキンズ監修)

化石の見つけ方を基礎の基礎からまとめた本。監修は入っているが、著者は一応サイエンスライター。文字が大きいので、恐らく小学生高学年ぐらいなら読める。

はじめは化石収集家向けのマニア本でも引いたかと思ったのだが、かなり初歩から紹介されているので私みたいに地質学はさっぱりわからんわ!!って人でも読める。逆に言うと、ある程度知識がある人が読むと内容が薄く感じるのだろうなと感じた。化石が好きで集めてみたいと思っている学生さんが読むにはいいかもしれない。

一番初めに著者は古生物学は、周囲に散らばる物的証拠、状況証拠を集めて推理していく探偵学だと記している。本書も地形図や地質図、どんな時代を狙うのかなど様々な情報を事前に照らし合わせていくところから紹介している。むやみ矢鱈に掘って現場を荒らしてはいけない。といった教訓などもまとめてあるのも興味深い。探偵学ということで、所々にシャーロック・ホームズから台詞を引用している。実際のホームズは、うんなんか、あれな人なので。読んでいてちょっと気まずい気分になった……。

私は、古生物学には興味はあるが、実際に掘りたいわけではないので、掘り出したあとどうやって化石を取り出し解析するのか?の部分が特に面白いと思った。

化石の探偵術 (ワニブックスPLUS新書)

化石の探偵術 (ワニブックスPLUS新書)

  • 作者:土屋 健
  • 発売日: 2020/10/08
  • メディア: 新書